17、暴露反応妨害法

治療

どの症状もきついですが、その中で一番どれがきついかと聞かれたら強迫症状です。強迫症状の治療法で暴露反応妨害法というのがありますが、これは強迫観念が出ている時に、確認行為をやらずに不安をやり過ごすという方法です。

一般的な暴露反応妨害法

例えば鍵確認の強迫症状の場合、不安で確認行為をしたくなっても、我慢して確認行為をせず、家を出ることです。1、2回の確認行為は必要経費として認めても、それ以上は確認行為はせず「えいやっ」と出かけてください。不安に引っ張られますが、出かけて用事をしているうちに忘れているでしょう。そういった体験を繰り返すうちに強迫症状が減ってきます。このため暴露反応妨害法は認知行動療法の一種と見られることもあります。

手洗い行為や、頭の中で確認行為をする場合、比較的手軽にできてしまいますが、これも確認行為をせずにやり過ごすことが大事です。我慢という感じになると大変なので、同じように別なところに意識を向けるのがいいかと思います。誰かと会話する、音楽を聴く、テレビを見る、ゲームをする、漫画を読むなど何でもいいと思います。その他、車の走る音を聴く、乗り物に乗ったら風景や電線を追う、鳥の声を聴く、虫の音を聴く、何でもいいので別なところに意識を向けてやり過ごしてください。地道な作業ですが、焦らず根気強くやれば少しずつ良くなります。

パニック症状をやり過ごす、心気症をやり過ごす、妄想をやり過ごす、幻聴をやり過ごすのも、暴露反応妨害法は有効です。作業療法も作業に意識を向けるという意味で、暴露反応妨害法の一つでもあります。

症状が激しい場合

他の精神症状もそうですが、強迫症状は集中をした時に強くなります。何かやろうとしてすぐに強迫症状が出てしまう場合は、集中力を落とさざるを得ないかもしれません。

集中するとは、穏やか、かつ明晰な精神状態で、自我を忘れ対象物に意識を向け続け、没頭している姿です。また集中している時は、うまく伝わるか分かりませんが、意識の透明度(感受性)・自由度が、高い状態とも言えます。それらが高いと、桜の花が散る はかなさを感じたり、ガラス細工や陶芸品の美しさを感じたりして、我を忘れるかもしれません。逆に、集中力が落ちる・意識の透明度(感受性)が下がる・意識の自由度が下がる、というのは、ボーッとして淀んだ感じになります。

この句は、意識の透明度(感受性)・自由度が高いと思います。

不来方(こずかた)の お城の草に 寝ころびて 空に吸われし 十五の心   
                              石川啄木

繰り返しになりますが、強迫症状は集中力を高めようとすると強く出てきます。前の記事で文章が読めなくなると書きましたが、読もうとすると(集中力を高めようとすると)強迫症状が出て読めなくなります。一旦確認行為をして落ち着かせても、読もうとするとまた出てきます。

それじゃどのように読むのかというと、初めは読もうとしないで、集中力を落としてボーッとした状態で文章を眺めます。読めるのだろうかと思うと不安・強迫症状が出てきますので、何も考えずにただ眺めるだけです。それからそーっと一行目に目をやり、順に字面を目で追っていきます。5、6行 字面を追ったところで、また一行目から字面を追い、それを繰り返していきます。そのうちに徐々に文章の意味が見えてきます。そこで踏み込んで読もうとすると強迫症状が出てしまいます。強迫症状に振り回された状態で読むと言葉の意味が分からなくなり、文章が虫食い状態になります。もっと集中力を上げたいんだけど、集中力を上げると不安、強迫症状が出て読めなくなってしまう。そのジレンマの中で読むことになります。

集中力には自ずとリミッターがかかる感じになりますので、このリミッターギリギリのところに慣れていく練習をすることによって、少しづつ少しづつ集中力を上げていくのも、暴露反応妨害法になります。

強迫症状と陰性症状との関係

話は変わりますが、この集中力や意識の透明度(感受性)・自由度に制限のかかる感じが、思考抑制、思考障害、感情鈍麻、意欲減退に繋がっていきます。つまり、常に強制的にボーッとしたモヤのかかった状態にさせられている感じになります。 これらをまとめて陰性症状とも呼んでいます。(陰性症状については統合失調症 診断の仕方を参照してください。)

もし強迫症状で悩まれている方がいれば、早めに確認行為を諦めることをお勧めします。スッキリしたいと思って確認行為を繰り返すうちに、意識の透明度・自由度・集中力はどんどん落ちていきます。身動きが取れなくなる前に諦めるのが賢明です。「いつ止めるの?」「今でしょ!」

確認行為を止めると不安・強迫観念のサンドバッグ状態になりますし、(気付いていないだけで既になっているのですが) 思考抑制・思考障害・感情鈍麻・意欲減退などの陰性症状、”うつ”を受け入れることにもなるでしょう。それでも諦めた方がいいです。一から人生をやり直すつもりで臨んでください。(今あるものを捨てろという意味ではないです。念のため)

ちなみにこの集中力・意識の透明度・精神の自由度に制限がかけられた感じ(陰性症状)は、強迫神経症だけでなく、その他の神経症、”うつ”統合失調症からでも起こり得ます。

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