人は思考の土台を失うと、どう考えていいか分からなくなります。
例えば、経済はお金を土台として成り立っていますが、もしお金というものがなくなってしまったら、明日からどう生計を立てていいか分からなくなる人も多いかと思います。特にお金ですべての価値判断をしていた人は何も考えられなくなるかもしれません。
S君も高校3年の時は、強迫観念、被害妄想、受験のことだけで頭いっぱいだったので、大学生になってから何も考えられなくなりました。頭を酷使し過ぎました。強迫症状や被害妄想は残っていました。
判断力低下と思考との関係
本来思考とは判断できない時にするものだと思います。すぐに判断できる時は、考える必要はないですから。そして判断がつかない時にする思考形態の一つに対話型思考(自問自答形式)があると思います。
たとえば好きな人に告白するか考えているシーンで、
自分A:「今度彼女に告白するけど大丈夫かなー?」
自分B:「うーん、彼女 彼氏いるかもな。確認してみたらどうかな?」
自分A:「でもどうやって確認したらいいんだろう。誰か知ってる友達いるか?」
自分B:「いないな〜。」
自分A:「じゃーあきらめた方がいいかな~?」
自分B:「そんなに簡単にあきらめちゃっていいのかよ!」
こんな感じの対話型思考になると思います。
これ位だったらまだいいんですが、判断力が極めて落ちて日常生活の判断もできなくなると、以下のようになります。S君に説明してもらいましょう。
S君談
大学入学直後は思考がうまくできない状態でした。体のだるさもあり風呂に入るのも一苦労でした。風呂に入るかどうか決める時も対話型の思考で考える必要がありました。思考を始めるにはまず、「おい、お前なんで風呂に入らねえんだ!?」と自分自身に話しかけるところから始めます。
自分:「体もだるいし、入りたくねえんだよ!」
もう一人の自分:「だから、髪の毛も抜けんだよ。」
自分:「でもだるいんだから仕方ねえだろ。!」
もう一人の自分:「汚ねえ奴だな。」
と、こんな感じで判断できるまで対話型の思考をしていきます。トイレに行くときもこんな調子で考える必要があったので、何も考えられない上に、やっとこさ考える時は対話型でしか思考できないなんて、なんてバカになってしまったんだろうと思いました。まるで赤ちゃんに戻ったかのように感じました。(赤ちゃんがどんな風に考えているかは知りませんが)
この対話型思考を文字で書くと雰囲気が伝わりづらいですが、実際は罵倒しあってます。(対話型)思考はその時の人間関係性(被害妄想)に影響されることも多いです。
人間関係性については次の記事をご参照ください。 妄想の陥り方 妄想について
この対話型思考が分かりやすい映像を見つけたので紹介します。
皆さんロードオブザリング(二つの塔2002)という映画を見たことがありますか?その中でゴラムという奇妙な人物がいるのですが、主人公のフロドについてまともな道を歩むか、人を魅了する邪悪な指輪を盗んで自分のものにしてしまうか、旅をしながらいろいろ葛藤するわけです。途中その葛藤が幻覚という形で出てきますが、2人のゴラムが罵りあっていますので、見てみてください。
どうですか? ゴラムが対話型思考で必死に考えている姿が分かると思います。またゴラムの思考が人間関係性(被害妄想)に影響されている様子も見事に描写されています。
S君の場合、この対話型思考は自分の思考と認識していたようですが、自分の思考という認識がなくなると幻聴や自生思考になると思います。
幻聴も自分の考えが聞こえると訴える患者さんもいますし、そうでない方もいらっしゃいますが、自分の思考だと認識した方が治りはいいと思います。少なくとも最終判断は自分が決めるという意志は持った方がいいと思います。
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