29、認知行動療法③

治療

精神分析、S君のエピソードからの続きです。

S君談

精神分析で親の成績至上主義の子育てが精神病の原因と分かったのに、なんで精神病が治らないんだろうとよく考えていたのですが、父親もどのような子育てをされたんだろうと、ふと思いを巡らした時のことです。

父も祖父に成績至上主義で厳しく育てられたんだろうか? だから、父はその育て方しか知らず、正しいと思ってやっていたんだろうか。そして、祖父も曽祖父から同じように育てられたんだろうか。世代を超えて、ゆがんだ子育てが伝わっていく。父も、祖父も自分のやり方が間違っているとは露ほどにも思っていないから、同じように子供に強要するのだろうと。

そうやって、いろいろ考えていると、次第にふつふつと憎しみの念がこみあげてきました。
「でも、親父らはいいよな。お前らは、そうやって子供に自分の思いを押し付けて、満足できるんだからよ。」
精神病で何もできなくなった悔しさ、そして怒りで涙が出てきました。
「俺は、こんな精神病になって、結婚もできないだろうし、子供もできないだろうよ。」
「俺は、親父らのように、(成績至上主義の)思いを押し付けられる人はいないんだよ!」
「いったい誰に、このつらい思いを、押し付ければいいんだよ!」
心の中で叫びました。

この時不思議なことが起きたんですが、叫んだ直後に、弟と妹のことが、ガツンと頭に入ってきたのです。
その瞬間に私はハッと気が付きました。「あっ!俺、すでにやっていた・・・」と。
弟や妹に「勉強に集中できない!」、「うるさい!」と怒鳴り、蹴って、暴力まで振るっていたことを思い出したのです。
「なんて、つらい思いをさせていたんだろう・・・」、自分がどれだけのことを弟や妹にやってきたのか、はっきりと理解したのでした。

弟と妹のつらさが身にしみて分かった瞬間、大粒の涙がぼろぼろこぼれ落ちてきました。同時に、体全体に酸素が行き渡ったかのように、全身を覆っていた鉛が溶けて身体がスーッと軽くなるのを感じました。
「あれ?俺、今泣いてる。いつものウソ泣きじゃない。本当の涙だ。」
「ごめん!、本当にごめん!」
もう弱いものいじめはしないと心に誓い、しばらく本当の涙を感じていました。

この一撃は大きくて、今まで治った分の20%くらいあると思います。

無意識は時間の概念がないだけでなく、自分と他人の区別もできないと思われます。他人の悪口を言えば、自分も悪口を言われる。他人をいたわれば、自分もいたわれる。そして自分を責めれば、他人も責めることになる。  参考記事:妄想の陥り方

S君がほんの少しでも、弟や妹をいたわる気持ちがあれば、ここまでひどい精神病にならなかったでしょう。

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